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これからの癌予防の可能性

『エナジー・タイムズ(US HEALTH NEWSの情報ソースである米国の健康情報誌)』誌のがん特集記事から、予防に的を絞ったがん研究の興味深い一面をうかがい知ることができるでしょう。この10年のうちに医学知識はますます進歩し、がんの罹患率を著しく下げる特定の栄養素や効果あるライフスタイルが明らかにされています。また、これらが同時にがん治療にも応用できるのです。これからの10年には、がんという人類の敵に対する闘いの場でさらに有効な武器が発見される可能性はとても大きいものでしょう。

がんとの闘いは30年目に入り、様々なところで敵と交戦するため医学知識の必要性はますますはっきりしてきています。近年、がんを分子レベルで見とおせるようになったことで、ワクチンや遺伝子治療のようなハイテク技術は格段に進歩を遂げ、期待や興奮、評判、研究資金といったものが一挙に押し寄せました。科学こそが魅力にあふれたもので『治療』はドラマチックな可能性を十分にはらむものだったのです。しかし今日、予防を重要視する考えはそれに負けないくらい注目を引くようになっています。

食生活を向上させ、よく考えてビタミンやミネラルを補給すれば、大きな予防効果が得られます。論争好きの専門家でも、少なくとも3分の1(あるいはそれ以上)のがんは、摂るべきではない食品を摂りすぎ、摂取を薦められる食品を軽視したにより起こります。
The Dietary Difference(食の違い)
がんは発症すると急速に進行することもありますが、時間をかけ様々な段階を経て進んでいきます。食品や補助剤の有効成分は、発がん物質の影響を最初に受けるところから始まって完全に悪性のものになるまでの過程で食い止めるのです。こうした栄養素の働きには:

環境毒や肝臓の代謝で発生する有害副産物を中和する

フリーラジカル(別にDNAに発がん性突然変異を起こすとも考えられる)を無害化する

免疫システムを強化する

細胞増殖をさせる酵素を抑制する

転移を防ぐ(がんの繁殖)
The Big Picture(大きな構想)
American Cancer Societyとthe National Cancer Institute(医療機関の大半が出しているガイドラインと一致)が薦める食のガイドラインはそれほど目新しいものではありません。例えば果物や野菜をたくさん食べること、食物繊維を多く摂り脂肪、特に動物性脂肪を抑えること。肉を控えめ、保存食品(亜硝酸塩を含む)をなるべく避け、アルコール類を飲むのなら量をほどほどに抑えること、そして総カロリー量や体重に気をつけ、自然な食材を多く摂るなどが主なものです。
Caroteniod Characteristics(カロチノイドの特性)
カロチノイドは、その名が指し示すように、果物や野菜に含まれるオレンジや赤の色素のことです。サツマイモからほうれん草、芽キャベツ(その独特な色はグリーンの葉緑素に紛れ込んでいる)など殆どの野菜に含まれますが、特ににんじんやトマトが代表格です。トマトに主に含まれるカロチノイドのリコペンは、最も多く研究材料となっているカロチノイドのベータカロチンと比べ、その抗フリーラジカル作用が2倍あると言われます。トマトやトマト主体製品の摂取に関する研究72件を再調査したものがJournal of the National Cancer Institute1999年2月号に掲載されましたが、これによると研究の約半数で1種類、あるいはそれ以上のがん罹患率低下を示していたということです。

研究では、男性の前立腺がんの危険性を減少するのに最も有効なのはリコペンだと指摘しています。1995年行われたHarvard Medical Schoolの研究(Journal of the National Cancer Institute1995年)では、男性の医療関係者4万8千人近くに果物・野菜の摂取について質問を行いました。この結果、前立腺がんの危険性を減少させた食品は、明らかにトマトソース、トマト、ピザ(トマトペースト)だけだったということです。1週間に10食(1食=米国で定められた1日の摂取量の単位)分を食べる被験者では同がんの危険性が45%減少、また4食から7食の被験者の場合には20%の減少を見ました。動物を使った研究によると、リコペンは腫瘍の数、大きさとも減少させたということです(Eleventh International Symposium on Carotenoids)。トマトはリコペンの宝庫の一つ。火を通すと、植物細胞の壁からリコペンが出てくるのです。トマトソースのオイルも胃への吸収を促進。リコペンは補助剤としても摂取できます。

Unreserved Resveratrol(完璧なレスベラトロール)
赤ブドウの皮の成分、レスベラトロール(resveratrol)が心臓を守る(LDLコレステロールの酸化を抑制し凝血を阻害することで)ことが明らかになり、ワイン愛好家を喜ばせています。さらにまた、この強力な抗酸化剤を後押しする新たな理由が仲間入りしました。シカゴ、イリノイ大学のジョン・ぺザット(John Pezzuto)研究者が、植物1千種について抗がん作用を調べたところ、活性成分として見つかったのがレスベラトロールでした。実験室で行ったテストでは、がんを誘発することで知られるフリーラジカルと炎症の2つを抑えることが分かりました(Sience1997年6月10日号)。また、マウスを使った研究でも、対照動物の研究と比べ皮膚にできた腫瘍の数を最高98%まで減少させたことが分かりました。効き目を得るために必要な量が多いため(同氏の推測によると、人が同じ効果を得るためにはワインを1日5ガロンがぶ飲みする必要が出てくる)、また1日に1~2杯以上飲むと乳がんになる危険性が高まることから、専門家はお酒を飲まない人にワインを薦めることはしません。しかし、合成レスベラトロール補助剤(グレープジュースでも同様)なら大丈夫でしょう。

Fat Chance(脂肪の危険性)
飽和脂肪は明らかに栄養素界の『悪役』です。動脈を詰まらせるばかりでなく、数種類のがんとの関連性を予測する声が上がっていますが、乳がんより前立腺がんとの関連性を指摘する研究発表が多いようです。脂肪は、一価不飽和脂肪(以下一価)と多価不飽和脂肪(以下多価)に大きく分けられ、一価の方は予防作用があると言い切れないまでも健康には良いものであるようです。例えば、乳がんに対する食の影響を調べた研究で、ギリシャの研究者はオリーブオイル(殆どが一価)を多く摂る女性は、乳がんに罹る危険性が低いということを指摘しました(Journal of the National Cancer Institute1995年)。

しかし、多価となると事は少々複雑になります。コーンやひまわり、他の野菜オイルに多く含まれるオメガ6という脂肪は、動物を使った研究でがんとの関連性が以前から指摘されています。同様に、マーガリンに含まれているタイプのトランス脂肪は、一部飽和の野菜オイルです。一方、EPAやDHAと呼ばれているオメガ3は、主にタラ、さば、おひょうといった冷たい深海に住む魚に含まれていますが、心臓病並びにがんを予防すると指摘されています。欧州24カ国を網羅した疫学研究では、魚や魚オイルの摂取が増加すると、結腸並びに乳がんの死亡率が低下したことをイギリスの研究者が明らかにしました(British Journal of Cancer1996年)。またフィンランドの研究者は、乳がん患者の乳房組織に含まれるDHAとEPA濃度は健康体の女性に比べかなり低いことも示しました(Nutrition and Cancer1995年)。

オメガ3の持つ抗がん効果は、炎症を促進するプロスタグランジン(prostglandine)を固める作用によるものと研究者は考えています。慢性的炎症は、DNAを傷つけ結果的にがんを発生させるフリーラジカルの絶え間ない活動を抑制できなくなります。オメガ3はまた、肝臓の有害物質解毒作用にも力を貸します。幸いにも、魚嫌いにはオメガ3の陸上の供給源として、亜麻種や麻オイルが薦められます。

研究者によると、土壌や野菜にセレニウムを多く含む地域ではがん罹患率が比較的低いということです。中国のセレニウム不足に陥っている地域は、胃がんの罹患率と食道がんによる死亡率が世界でも高い割合を示す場所の一つに挙がっていますが、研究者はグループ別で違った組み合わせの栄養素摂取を試したところ、5年後にセレニウム、ビタミンE、ベータカロチンを摂取した被験者の間でがん罹患率が著しく減少したことが分かりました(Biological Trace Element Research1985年)。米国の非黒色腫皮膚がん予防のためセレニウム補給を調べていた研究者は、その結果に驚きを示しました。1日に200mcgを平均4.5年摂取した被験者に対し皮膚がんでの有効性は現れませんでしたが、肺、結腸、前立腺がんにおいて罹患率の目覚しい低下を示したということです(Journal of the American Medical Association)。

さらにハーバード大学の最近の研究では、男性の前立腺がん患者は健康体の被験者に比べ、足の指の爪から検出した(摂取量を知るため)セレニウム濃度が非常に低かった(Journal of the National Cancer Institute1998年)ことを指摘しました。

Crusiferous Vegetables(十字花科野菜)
ブロッコリー、芽キャベツ、カリフラワー、ケール(キャベツ)のような十字花科野菜は、以前からがん予防との関連性が指摘されています。94人を対象に特に十字花科野菜の摂取を調べた1996年の臨床研究では、67%ががんに罹る危険性低下を示しましたが、特に肺、胃、結腸、直腸がんで強い影響を見せました(Cancer Epideomiological Biomakers1996年)。

ジョン・ホプキンス(Johns Hopkins)大学研究者グループは、こうした野菜に含まれるイオウが肝臓に発生する発がん物質の解毒酵素を刺激することを明らかにしました。ラットにがん誘導化学物質を注入したところ、乳がんが発症したのは、前もってイオウで処置されたラットのうち26%だけでした。(処置されていない)対照グループの方は罹患率が68%を表しました。(処置グループで)がんに罹ったラットでも腫瘍が出来たのは後になってで、それも比較的小さかったということです。

インドール‐3‐カルビノール(indole-3-carbinol)と呼ばれる十字花科野菜の成分に焦点を当てた研究者は、特に乳がん細胞への有効性を明らかにして見せました。カリフォルニア大学バークリー校の研究者は最近、インドール‐3‐カルビノールの働きに関して、抗エストロゲン作用(以前から考えられていた)よりも、複製に重要な役割を示すプロテインを消すことで乳がん細胞を阻止する作用を指摘しています(Journal of Bio Chem1998年2月13日号)。ある種のがんを治療する場合、タモキシフェン剤(エストロゲン作用を相殺)を使った化学療法にインドール‐3‐カルビノールを併用する医師もいますが、この時別々で使用する場合よりはっきりした有効性を示したということです。

Fiber(食物繊維)
イギリス人内科医デニス・バーキット(Denis Burkitt)は数10年前、南アフリカの原住民の間に結腸がんの罹患率が低く、それは食物繊維の多量摂取によるものだという説を発表しました。同説によると、食物繊維は消化物の腸の通過を早め、発がん物質と内膜との接触時間を短くすることで便通を促すとしています。また、がん誘食物繊維の導物質である胆汁酸を無害化するとも述べています。

この説は多くの研究によって裏付けられていますが、ハーバード大学研究者グループは最近、この考えに水をさすような発表を行いました。それは8万人以上の看護婦を対象にその食習慣の資料を分析した研究結果で、食物繊維摂取では結腸がんや前がん性のポリープ予防にそれほど有効性を示さないというものでした(NEJM1999年1月21日付)。多くの専門家はこの反証にさらに異議を申し立てています。おそらく、この研究の『多量の食物繊維』摂取というのは、それほど多量ではないのかもしれません。また、これは多くの研究の1つに過ぎないとも言えるのです。

Fighting Breast Cancer(乳がんと闘う)
食物繊維はまた、乳がんの危険性低下とも関連があります。まず、脂肪ががんの主因なら食物繊維は低脂肪食であることを示す要素だと考えられていました。しかしフィンランドでは、こうした見方が弱まっています。というのは、フィンランドの女性は脂肪も食物繊維もたっぷり摂り、なおかつ乳がん罹患率が米国に比べかなり低いという結果があるからです(米女性は脂肪をたっぷり摂るが繊維質食品は不足気味)。

食物繊維は、エストロゲンが肝臓を通過する際、エストロゲンを排泄します。一方、多くの高食物繊維植物や野菜に含まれるイソフラボン(isoflavone)は、働きそのものはエストロゲンより弱いものの、それ自体がエストロゲンに似た働きを示し、乳房組織のエストロゲン受容体に結合します。また亜麻種オイルに含まれるLignansと呼ばれる特別な食物繊維は、次の2つの方法でエストロゲンに反作用を及ぼします。つまり、エストロゲン受容体と結合することと、他のホルモンのエストロゲン転換を抑制する方法です。

食物繊維には基本的に、不溶解性(例えば小麦ブランやセロリ、果物や野菜の皮)と溶解性(オートブラン、かんきつ類果物、豆類など)の2つがありますが、数年前までは不溶解性食物繊維ががん予防に効果があると考えられていました。しかし、その考えも今ではひっくり返されています。かんきつ類ペクチン(citrus pectin)と呼ばれる溶解性食物繊維は、前立腺、肺、乳房、皮膚がんの転移あるいは繁殖傾向を食い止めることが分かっています(Journal of the National Cancer Institute1995年)。がんは大体、血流に入りこみ新しい領域に侵入する場合において、命取りとなります。変性かんきつ類ペクチンは、がん細胞の健康組織への付着を防ぐことで侵略行為を明らかに止めるのです。

Novel Antioxidant(新種の抗酸化剤)
Inositol hexaphosphate(IP6)という名は舌を噛みそうですが、私たちはこの自然物質をコーンや米、未精白の穀物シリアル、オーツ、小麦といった食品から毎日かなりの量摂っています。IP-6を分離させたところ、細胞が腫瘍となる破壊的過程をこの強力抗酸化剤が遅らせるということが、最近の研究で分かりました。Anti-Cancer Research(1998年11/12月号)掲載のUniversity of Maryland School of Medicineが行った動物研究では、IP-6が肝臓の腫瘍を小さくしたことを指摘しました。研究者は、IP-6ががんを予防し腎臓結石や心臓病といった健康問題の危険性低下に有効であると考えています。こうした研究はこれからも続き、私たちはがんの罹患率を下げる知識をさらに広げていくことでしょう。次の千年には報道媒体やインターネットサイトにより多くの情報が載せられるようになり、がんを予防していこうとする私たちの力や責任はさらに大きいものとなるでしょうが、それにも増して新しい可能性を提供できるようにもなるはずです。


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